金山のまちを知るために、まちの方々にお話しを聞く「かなやまの達人」インタビュー。
第2回は、名古屋市音楽プラザ(1996年開館)に練習拠点や事務所を置く「名フィル」の小出さんと林さん。お隣の名古屋市民会館でもずっと公演を行なっている「名フィル」のお二人に、金山の思い出などをうかがいました。
※本記事は2024年度アートリンク金山「かなやまじんくらぶ」の活動にて行ったインタビューを転載しています※
▼「かなやまじんくらぶ」で制作したZINEのページ(ZINEの全ページはこちらからご覧いただけます)
聞いたひと:かなやまじんくらぶ(嶋崎出、山口麻加)
クリエイティブ・リンク・ナゴヤ(佐藤友美、谷口裕子)
聞いた日と場所:2024年9月20日 名古屋市音楽プラザ
◾️お仕事について
小出さん)
演奏事業部の仕事はコンサートの企画で、どういう方針で、どんな指揮者やソリストを呼び、どんな曲でプログラムを組むかというのを、その時の常任指揮者や音楽監督に相談しながら決めていきます。主催公演であれば名フィルとしての方針に従って、依頼公演ではクライアントと相談してお客さんに喜んでもらえるような有名で華やかな曲など、ということですね。
林さん)
ライブラリアンは、年間100回以上ある公演の楽譜を扱う専門職です。楽譜も買ったり、レンタルしたり、どちらもない時は編曲してもらったり。実は楽譜は買ってもそのまま使えないこともあって、スコアとパート譜が合っているか一音ずつチェックするなど、下手すると半年以上かけて整備したりする曲もあるんです。ほとんどが外国の出版社ですが、音符が見えないぐらい薄かったりとか。五線がかすれて見えないときは、一本ずつ引き直すんですよ。みんなに提供できるところまで準備するのが大変ですね。そして練習や本番ではオケの全員の譜面台に配って、終わったら回収するところまでが仕事です。
◾️金山と名フィル
小出さん)
私は神奈川県出身で2003年から名フィルの事務局に入りました。その頃はもう音楽プラザでしたけど、金山に降り立ってここがガラが悪そうとかっていうのは、私は全然思わなかったですね。ただ、2006年度からスタートした「市民会館名曲シリーズ」は、私は「金山名曲シリーズ」っていうタイトルにしたかったんです。そしたら、その時の上の人たちが金山はあんまり良いイメージがないから、そんなタイトルにするなと言って。その頃とくらべたら随分イメージも良くなったんじゃないですかね。
地域貢献としては、音楽プラザで無料のサロンコンサートを月1回開催しています。どこから来ているかなどは調べていませんが、基本的にはご近所の方が多いのかなと思ってます。まちかどコンサートは名古屋都市センターでもやっています。昔は金山駅でもやっていたんですけど最近は通行人の邪魔になるからとできなくなってますね、本当はやりたいんですけど。
林さん)
私は1988年に、名フィル初のライブラリアンとして雇われまして。初出勤は7月21日で、その日市民会館で公演があって、ゲルギエフ指揮で、ラフマニノフのピアノ協奏曲をキーシンが、パガニーニのヴァイオリン協奏曲をヴェンゲーロフがソリストで。夢のようなコンサートで衝撃的でした。
その頃の名フィルは名古屋市民会館の中に企画制作や総務、経理などの事務所がありましたが、オーケストラは昔の名古屋市立錦高等学校の体育館を専用練習場として使わせていただいていました。ここは1988年9月に名古屋市立中央高校に統廃合となり、我々も新設された中央高校へ引越ししました。ただそこの練習場はとても狭く、楽器倉庫もなかったので使うことができず、リハーサルは名古屋港湾会館、サン笠寺、名古屋テレビ東別院ホールなどを転々としました。ですので私は市民会館で公演がある時だけ金山に通いました。そのころ岐阜に住んでおりましたが、国鉄の東海道本線には金山駅がなく、金山総合駅ができる前までは、坂を下っていったところにある名鉄の金山橋駅を利用していました。またその頃は愛知芸術文化センターもないので、オーケストラのコンサートはもっぱら名古屋市民会館で開催されていましたね。
1996年にこの名古屋市音楽プラザができ、オーケストラの現場と企画制作、総務、経理など全てが一緒になり、指揮者室、ソリスト室、個室の練習場などもできて、なにより弊団専用ではありませんけれどオーケストラ練習場がすぐ上の階にあって、とても便利になりました。オーケストラのリハーサルも毎回違うところを転々としていると、毎回本番並みの準備と心構えが必要なので、とても大変だったんです。
◾️名古屋市民会館と名フィル
小出さん)
初めて名フィルが市民会館でやったのが1972年の第16回定期演奏会。多分開館したその月なんじゃないかな。正直、あんまり特別感はなくて前々から決まってたプログラムをやった感じですね。A席が1300円。
あと1998年の『ワルキューレ』は多分、名フィル史上最高の名演と言われてます。去年亡くなられた飯守泰次郎さんが、ワーグナー指揮者として自分の力を全部注ぎ込んだ、名古屋にとっても非常に記念碑的なコンサートだったと、当時の楽員や事務局員からも聞いています。
◾️新たな劇場に期待すること
小出さん)
川崎市がいい例で、昔は川崎なんか危なくて子どもは行けなかったんですけど、駅前にミューザ川崎っていう音響的にも素晴らしいコンサートホールを作って、もうガラッと文化都市みたいなイメージに変わりました。あれぐらい劇的に変わった例はないと思います。
例えば金山はセントレアの玄関口になっているんで、海外のお客さんの呼び込みっていうのももっとできるんじゃないか。海外への情報発信は我々も課題なんですけど、でも日本人がヨーロッパ行く時ってコンサートやオペラに合わせて行きますよね。金山はそういうポテンシャルを秘めた街だと思います。地下鉄も、名鉄もJRも全部ここで集まってるし、名古屋の文化の中心としての役割を、もっと担っていきたいところですよね。
旅行に行ったら現地のオーケストラを聴きたいって人は結構いるんですよ。名古屋に来たら名フィルを聞きたい。日本人の悪い癖なんですけど、国内で完結してしまって、海外のお客さんをあまり眼中に入れてないってことがあるんで、これはやっぱり改めたいなと。実際、名フィルはとても良いオケで、外国人の指揮者が来ると驚きます。もちろん世界のトップのオケとはまだ差があるんですけど、日本に来るちょっとした海外オケよりずっと上手い。でも一方、それをわかっている名古屋の人が少ないのも悔しいですね。どうしても名古屋より東京、東京より海外、というイメージがあるので。
今は定期演奏会も愛知芸文でやってるので栄ですけど、新しい市民会館ができたら、金山をもっと名フィルの街って状況にできればいいんですけどね。あと、前日のリハーサルから使えるというシステムにしてほしいですね。やはり本番のホールで音を作りこめるかどうかは演奏のクオリティに大きく影響しますから。
◾️金山でよく行くお店
小出さん)
飲みによく行くお店っていうのは実はないんですよ、夜の本番が多く、忙しすぎて。たまには飲みに行こうっていうのは、楽員は多分やってると思いますけど、事務局はほとんどやってないですよね。林さんと最後、飲みに行ったのが何年前だったかな?
林さん)
沢上交差点の石田屋ですかね?前はちょくちょく行ってましたね。ここの近くだとかえるの九八郎とか。東別院の立ち飲みワインのモンドールは、ほらプレミアム・フライデーってあったでしょ、それをまだやってて月末の金曜日には、1000円で3杯飲めて一つなんかおかずがあるんですよね。ほんとセンベロですよね。ランチは午後のリハーサル始まる関係であまり出られないけど。
小出さん)
自分がランチに行くときは、そこの東桜パクチーとか。あとビンディカ金山のネパールカレー、昔カシミールって言ったんですけどね。カシミール時代からそこはずっと通ってます。
文章構成:佐藤友美 撮影:谷口裕子